第8回 卒業論文レジュメ(2002/12/2) 国際学部国際社会学科4年 佐藤美佐子
最後の発表である今回は、11月28日(木)の東京での調査についてと、卒論の流れについてまとめた。
品川区モデルルーム(見学)
住環境整備が必要だ、住宅をバリアフリーにすべきだ、などと考えてはいるが、実際に高齢者に配慮された住宅を自分の目で見たことはなかった(そういう機会もなかった)。卒論の論点とは直接関わるわけではないが、どういうものなのか一度確かめて、体験してみたいと思った。調べてみたところ、行政が設けたモデルルームが品川区にあるということだったので、東京に調査に行く機会を利用して足を運んでみた。
●モデルルームの概要
・ 平成5年に開設された施設(所管は品川区)。福祉施設の一角にある。
・ 高齢者や障害者が車イスでも生活できるようにした、部屋、福祉機器、道具を展示
部屋・・・台所、居室、和室、トイレ・洗面所、浴室・脱衣室
福祉機器・・・電動ベッド、ポータブルトイレ、歩行器など
道具・・・操作が簡単な家電製品(炊飯器、テレビ、洗濯機など)、食器など
・ 適切な住まいと機器で、できるだけ長く自宅で暮らせるようにと考えた一例
・ 相談員が常駐し、案内や相談に応じている
●見学して気付いたこと
・ 段差がない(敷居の段差も)
・ 車イスでも通れるように玄関・廊下・扉の有効幅が広い
・ 開きやすいドア・戸(引き戸など)・ドアノブ
・ 快適なイス(長時間座っても疲れない、リモコンで上下し立ち上がりが楽にできる)
・ 車イスのままでも苦にならない高さのキッチンシステム
・ 大きくて押しやすい電気のスイッチ
●相談員の方との話から印象に残ったこと(話の内容のまとめ)
・ 企業等が提案するバリアフリー住宅は、「お金をかければこれだけのことができる」ということを示す「最大限」のもの。それに対し、モデルルームでは「最小限」のことでいかに生活が変わりうるかということを示している。
・ バリアフリーや高齢者の生活・身体状況について知識のない人が法律や制度をつくるから問題が出てくる。そういうことに携わる人(行政職員など)こそ、きちんとした知識が必要ではないか。
・ 高齢者が生活する場としての住宅を整備することも大切だが、それだけで自立した生活はできない。高齢者の生活そのものを支えるサービス・施策もしっかり整備されることが必要である。
シルバーサービス振興会 http://www.espa.or.jp/ (聞き取り調査)
住宅改修に関わる事業者などへの研修が必要だと考えており、それについて具体的に調べたかった。そのため、研修会を開催している団体を探していたところ、「シルバーサービス振興会」という組織があるということが分かり、連絡をとることができたので、振興会が行っている研修会がどのようなものなのか、振興会を訪ね、話を聞いた。
●振興会の概要(HPより)
設立主旨等
・
超高齢社会に向けて、高齢者をはじめ国民すべてが安心して暮らせる社会づくりを民間の立場から支えるため、シルバーサービスの質の向上とそのその健全な発展を図ることを目的に昭和62年3月に設立された厚生労働省所管の公益法人
・
シルバーサービスの健全な育成を図ろうとする民間企業・団体が集まり、個々の企業、業界での対応を超えて、情報交換をはじめサービスの質的向上を図り、更には行政や利用者とのパイプ役を果 たす業種横断的組織として誕生
活動内容
(1)
シルバーマーク制度の運営
シルバーマーク制度:消費者であるお年寄りが、『シルバーサービス』を安心して利用できるように品質基準を定め、それを充たす『サービス』に『シルバーマーク』を交付する制度 対象は訪問介護、訪問入浴介護、福祉用具貸与、福祉用具販売、在宅配食の在宅5サービスに有料老人ホーム
(2)
シルバーサービスに関する各種調査研究
(3)
シルバーサービスに関する広報・普及活動
(4)
シルバーサービス事業従事者研修の実施運営
(5)
行政機関、その他関係団体との連携及びシルバーサービスに関する政策提言
(6)
国際交流(海外調査団の派遣など)
(7)
会員企業相互による研究会活動
(8) 健康長寿のまちづくり事業の推進
●振興会が行っている「介護に係る住宅改修事業者研修会」
「本研修は、介護保険制度の給付対象サービスである住宅改修サービスについて必要となる基礎的な知識および技能を有する従事者を養成することを目的としており、主に建築関係事業者および従事者、介護支援専門員、介護ショップ事業者、福祉・医療関係者等を対象として、平成11年度より各地域のシルバーサービス振興組織が主催(当振興会が共催)して実施しております。」
*平成14年度開催 広島県・神奈川県・京都府・千葉県・茨城県
調査より
●研修内容について
主な内容(シルバーサービス振興会が作成したテキストを使用しているとのこと)
住宅改修事業者の倫理について/高齢者・障害者を支援する基本的な視点/住宅改修に係る各種公的制度/ケアマネジメントの理念/移動障害の理解と対応策/高齢者の身体状況ごとの住宅改修のポイント/福祉用具使用体験及び高齢者疑似体験/住宅改修の基本技術/住宅改修と福祉用具/住宅改修演習
●研修会の受講者について
実際には施工業者(建築関係)がやはり多い。しかし、指導しなければならないということで、行政の職員(市役所等の担当課職員)も受講している。
●研修会の開催について
・ 「介護予防・生活支援事業」の中に「住宅改修支援事業」が組み込まれているが、それを実施している自治体は約77%。研修会は本来なら各自治体が行うべきものだが、やっている自治体もあればそうでないところもある。事業自体をやっていないところもあり、それを補完するようなかたちで民間が研修会を行っている。
・ より多くの地域で研修が行われたほうがよいが、採算が取れないところでは、やりたくてもできない。自治体で研修会をするならば補助金がでるが、民間が行う場合はそうではない。よって、やはり採算が取れなければできないということになる。
・ 振興会で研修会を開催しているとはいえ、受講者が介護保険における住宅改修の理由書を書くことができる資格者として認定されるということにはなっていない(自治体によっては、それを認めるという通達を出しているところもある)。研修を受けるほうも、資格者として認定されるといったインセンティブ(見返り)がなければ受けない。よって、人が集まらないところでは開催できない。
●研修会の課題について
研修会の受講者が資格者として認められるといったことを実現させること。それを国などに対して働きかけていきたい。
考察
実際の研修会を見るということはできなかったが、住宅改修に関する研修会を行っている組織の一つからではあるが話を聞くことができ、研修会の実情というものが以前よりは分かった。研修会を開催すること自体が義務ではないので、より多くの関係者が受講するようになるには、まだまだ課題があるようである。それでも、住宅改修に携わる人が研修を受けているといないとでは違いがあることは間違いなく、研修会を継続し、広めていくことが必要である。
卒論の流れ
はじめに 住環境への関心
第1章 高齢化の進行と住環境整備の必要性
第2章 住環境整備の具体的方法とそれをめぐる施策
第3章 住宅改修の問題点と課題
第4章 住宅改修に対する取り組み
終わりに 高齢者の生活を支えるための住宅改修のあり方(住宅改修への支援の必要性)